言語としての日本語の概要
- 場所:中国大陸の東海諸島にて
- 時代:7世紀後半に形を整えた
- 原理:漢字を媒体として、2原理(音語と訓語)が同時存在する
- 語彙:音訓二併性(2原理の同時存在)である
- 文体:雑種文体。「漢字文体」と「平仮名文体」の間に「漢字訓読体」と「漢字平仮名混じり文体」を交えて成り立つ
- 漢字文体:漢語、漢文、漢詩
- 平仮名文体:和語、和文、和歌
- 詞辞構造
- 文字(書字)中心言語。漢字への依存度が高い
- 動詞と名詞(漢語+漢字)を、助詞(平仮名)が支える
- 内容:多重言語。漢語・和語・カタカナ語・西欧語
- 文字:「◇+」「お」「ノ」に象徴される3種類の文字の複合体
- 発音:「表音音写性」が強い平仮名が、「音、雑音」と「言葉」の距離を近づけ、日本語の即物性を高くしている
日本語の中の3つの言語と書法(カリグラフィー:Calligraphy)
以下の「3つの異なった原理の言語」が同時に存在し、それぞれが異なる書法(カリグラフィー:Calligraphy)を持っている。それが、多くの「日本語固有の特徴」を生む原因。よく言われる「漢語と和語の二重性」は表層的な特徴。
漢語(音語)
- 中国大陸経由の漢字の発音、を「日本語的漢語(音語)」に固定化したもの
平仮名(訓語)
- 「和語」を成立させ、和歌、和文を誕生させた
- 平仮名は「ふるいにかけずに発音を言語体系に組み込む」ため「擬態語、擬音語」が過剰になった
- 素朴な日本語ができあがった
片仮名語(助詞)
- 助詞「テニオハ」により漢文を開いた
- 新しい構造「漢文訓読文」を誕生させた
- 「音、雑音」と「言葉」の距離が近く、日本語の即物性の高さの根拠となった
- 音素(子音と母音)に分けられなかった
- わずかな文字数で音をそのまま表記できる「表音音写性」によって、身の回りのことを全部言葉にできた
日本語の3つの原理
音訓二併性
一つの言葉が「音訓二併性(2原理の同時存在)」であること
媒体としての漢字
イメージと言葉を媒体するものが、音ではなく「漢字という文字」であること
文字中心言語
漢字に対する依存度が高い「文字(書字)中心言語」であること
日本語の漢字が含む二重性(音語と訓語)
日本語が含む3種類の言語
- 漢語(音語)
- 和語(訓語)
- 片仮名語(助詞)
日本語の漢字が含む二重性
日本語の漢字は「音語」と「訓語」を併せ持つ。それぞれの単語と音を持ち、それが同時存在している。
例:雨
- 漢語(音語):豪雨、梅雨、春雨、煙雨、雨期
- 和語(訓語):はるさめ、こさめ、きりさめ、あまみず、あめあがり、あまがえる
例:梅
- 中国語:メイ→日本で訛り:ウメとなった
- それを訓語に当てた(訓語の機能を果たしているが出自は音語。「バ」も音語)
例:馬
- 中国語:マア→日本で訛り:ウマとなった
- それを訓語に当てた(訓語の機能を果たしているが出自は音語。「バイ」も音語)
- 日本に入ってきた漢字が、日本語を音訓二併性構造に育てていった
- それを訓語に当てた(訓語の機能を果たしているが出自は音語。「バイ」も音語)
日本語の7つの文体
- 漢字文:漢字のみ
- 漢字+平仮名混じり文/漢字+片仮名混じり文:漢字の割合多い2文字を使用
- 平仮名+漢字混じり文/片仮名+漢字混じり文:平仮名/片仮名の割合多い2文字を使用
- 三文字混用文:漢字、平仮名、片仮名の3文字全てを使用
- 平仮名文:平仮名のみ
- 片仮名文:片仮名のみ
- 欧文翻訳体:非東アジア圏言語を、欧文文体にならい、漢字を使用し、翻訳した文体
日本語の文字の書法(カリグラフィー:Calligraphy):表意性と表音声
日本語は、複数ベクトルの統合体(3種類の文字が持つ異なるベクトルを、1言語内部に含む)。表意性が高い漢字と、表音声が高い平仮名、そして漢文を開く片仮名がそれぞれ違うベクトルで一つの文体に並列している。
漢字:ダイヤモンド型
独立表意文字。四方八方に対して、遠心と求心の両方のベクトルを持つ
「◇」と、その内部に「+」
平仮名:上からの流れを受け取り、円形回転を行い、下方へ受け渡す。
音写性が高い表音文字。連続してのみ意味をもつ
「お」
片仮名:流れは右上からやってきて、左下に向かう
漢文漢詩を開き、日本語化を行う。漢字と漢字の間に楔を打つ
「ノ」
日本語の発音の5つの特徴
平仮名は「表音音写性」が強く、日本語を即物性の高い言語にした
「擬態語・擬音語」が過剰である
音楽への影響:母音で終わる平仮名音楽が生まれた
平仮名は「開母音型の日本語」を作り、日本独特の「母音で終わる平仮名音楽」ができた
最後の母音を伸ばし、高低、長短、テンポだけが音楽となった
- 謡曲:山のーおーおーおー
- 浄瑠璃
- 小唄
- お経
- 唱名
平仮名の五母音が、各地方の「原生発音」を失わせた
平仮名の五母音により、各地方の「五母音に収斂しない発音」は平仮名化され、原生の発音を失った
平仮名によって「濁点による明瞭な静音差、濁音差」が生まれた
- 実際の話し言葉と書き言葉の間には乖離があった。(か⇄が⇄け⇄げ⇄き⇄ぎ)
- 平仮名が日本に定着する前の漢字(音語)は、決して発音記号ではなかった
- 「か行・さ行・は行・た行」は、「音と音写」の関係において清音の統一化を進めた
- 同時に「漢文漢詩」の訓音としては「濁音」「半濁音」の区別が必要だった
- その差を表現するために「濁点」が付き、整理が進んだ
同音異義語と異音同義語が多い言語となった
音語:3種類の音語
- 呉音:飛鳥時代前後に入ってきた発音 ※行(ギョウ)
- 漢音:奈良時代、平安時代に入ってき発音 ※行(コウ)
- 唐音:宗の時代に入ってきた発音 ※行(アン)
訓音
- 平仮名:俗語、地域語を言語登録する
- 同音異義語、異音同義語をたくさん持っている
プロセス例:漢語「春」の発音は、どのよう日本語化(和語化)したか?
- 「春」という漢字が大陸から輸入される
- 中国語発音が日本で訛り、「春(シュン)」という漢語(音語)が生まれる
- 「春(シュン)」と同じ意味を指す複数の「和語以前の倭の諸語」から、いくつかの訓語が取捨選択される
- 「はる」という訓語が確定され、和語として成立/認識される
- 「春」という文字(漢字)に対して、「シュン」という音と「はる」という音が二重に張り付いた形で認識される
参考書籍
タイトル:日本語とはどういう言語か
2006年1月10日初版発行
発行所:中央公論新社
著者:石川九楊