谷川俊太郎「朝のリレー」のテキストを分析・翻訳する

この文章は、谷川俊太郎さんの詩「朝のリレー」のテキストを分析・翻訳したものです。

朝のリレー

谷川俊太郎

カムチャツカの若者が
きりんの夢を見ているとき

メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている

ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき

ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする

この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと

そうしていわば交替で地球を守る

眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる

それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ

出典 「谷川俊太郎詩選集 1」

平易で具体的な言葉を使い、2つの贈与動詞(send-recieve)で世界の原理を表現する

ポイントはたくさんある。

何より、平易で具体的な言葉を使って、広く深く世界の原理を表現していることに心が動く。

  • 序盤に登場する具体的な動詞(夢を見ている、待っている、寝返りをうつ、ウインクする)が、後半の概念的な動詞(朝をリレーする、地球を守る)と対になっている
  • 主語を形容する言葉を世界各地の地名にすることで、視点が地球上をダイナミックに移動する
  • 視点は、小さな具象から小さな具象を結び、大きな具象に移動し、その後、概念となる(地球の各地にいる少年少女を結び、その後、地球を外側から見る視点へ)。
  • 再度、小さな具象に戻るが(眠る前のひととき)、今度は仮説的空想に移行する(どこか遠くで)
  • あなたが送った朝を受けとったものが誰なのか、あなたは見ることができない。だが、耳をすますと、証拠としての音を聞くことができるかもしれない、そういう世界に私たちは生きているのだ、とこの語り手は言っている
  • 後半で登場する主語「ぼくら」によって、連帯を表現している
  • 後半で登場する主語のないテキスト「眠る前のひととき耳をすますと どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる」によって、読み手は、主語を表現しない自由を受け取る
  • 序盤の登場人物たちは皆、若い人々として表されている(「若者」「娘」「少女」「少年」)。だが、仮にこの詩の読み手を「死者(あるいは若い人々の祖先)」と想定すると、若いと表現された人々は、いわゆる老人でもあり得ることになる。つまり、「生の中にいる我々」は皆等しく若い、という捉え方ができるようになる
  • その場合、後半で登場する主語「ぼくら」は、「死者(あるいは若い人々の祖先)」を含んだ連帯を表現している、と捉え直すことができるようになる
  • そして最後のテキストにある二つの動詞「送った」「受けとめた」が、生物の根源的な「贈与動詞」であることが浮き彫りになる。つまり「与える-受ける」「渡す-もらう」「give – take」「send – recieve」。
  • 最後に登場する名詞「証拠」が、どこか遠くで鳴る目覚まし時計のベルの音と紐付き、眠る前の瞬間の耳を澄ましたあとの時間に紐付く。そして印象的な単語が余韻として頭に響き続ける(地球 – 守る – 耳を澄ます – どこか遠くで – 鳴ってる – あなたの送った朝 – 誰か – しっかりと受けとめた – 証拠)

主語:Subject

・カムチャツカの若者
・メキシコの娘
・ニューヨークの少女
・ローマの少年
・朝
・ぼくら
・あなた
・それは

動詞:Verb

・夢を見ている
・待っている
・ほほえみ
・寝がえりをうつ
・ウインクする
・はじまっている
・リレーする
・守る
・耳をすます
・ベルが鳴ってる
・なのだ

直接目的語:Direct object

・きりんの夢
・バス
・柱頭を染める朝陽に
・朝
・地球
・証拠

主語-動詞-直接目的語:S-V-O

・S[カムチャツカの若者]
   – V[夢を見ている]

・S[メキシコの娘]
   – V[待っている]
    – O[バスを]

・S[ニューヨークの少女]
   – V[寝がえりをうつ]
   – V[ほほえみながら]

・S[ローマの少年]
   – V[ウインクする]
    – O[柱頭を染める朝陽に]

・S[朝]
   – V[はじまっている]

・S[ぼくら]
   – V[リレーするのだ]
    – O[朝を]

・S[ぼくら]
   – V[守る]
    – O[地球を]

・S[あなた]
   – V[耳をすます]

・S[それは]
   – V[なのだ]
    – O[証拠]

場所を表す副詞句:Adverbial phrases of location

・朝もやの中で
・この地球では
・どこかで
・経度から経度へと
・どこか遠くで

主文 – 従属文:Main clause – subordinate clause

・それは証拠なのだ
    – 証拠 [あなたの送った朝を誰かがしっかりと受けとめたという]

場面転換の順序:Scene change order

  1. カムチャッカ
  2. メキシコ
  3. ニューヨーク
  4. ローマ
  5. 地球
  6. どこか
  7. 経度から経度へ
  8. 眠る前のひととき
  9. どこか遠く

比喩(隠喩):Metaphor

・どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる = あなたの送った朝を誰かがしっかりと受けとめた証拠
  →ベルの音= 証拠

The relay in the morning

The relay in the morning
by Shuntaro Tanikawa

When a young person in Kamchatka dreams of a giraffe,
a girl in Mexico is waiting for a bus in the morning mist.

When a girl in New York turns over in bed with a smile,
a boy in Rome winks at the morning sun coloring the columns.

On this Earth, morning is always starting somewhere.

We relay the morning,
from longitude to longitude.

In this way, we protect the Earth in turn.

If you listen carefully before you go to sleep,
you can hear the alarm clock ringing somewhere far away.

This is proof that someone has received the morning you sent.


・turns over in bed:寝返りを打つ
・winks at:ウインクする
・relay + DO(Direct Object):〜をリレーする
・somewhere far away:どこか遠くで
・from longitude to longitude:経度から経度へ
・in turn:交代で
・proof:証拠

El relevo de la mañana

por Shuntaro Tanikawa

Cuando un joven en Kamchatka sueña con una jirafa,
una chica en México está esperando el autobús en la niebla de la mañana.

Cuando una chica en Nueva York se da vuelta en la cama con una sonrisa,
un chico en Roma guiña un ojo al sol de la mañana que colorea las columnas.

En esta Tierra, siempre está comenzando la mañana en algún lugar.

Nosotros relevamos la mañana,
de longitud en longitud.

De esta manera, protegemos la Tierra por turnos.

Si escuchas con atención antes de dormir, puedes oír el reloj despertador sonando en algún lugar lejano.

Esto es una prueba de que alguien ha recibido la mañana que enviaste.


・El relevo:リレー
・relevar:リレーする
・en la niebla de la mañana:朝もやの中で
・se da vuelta en la cama:寝返りを打つ
・guiña un ojo a 〜:〜へウインクする
・por turnos:交代で
・el reloj despertador:目覚まし時計
・la prueba:証拠

Le relais le matin

par Shuntaro Tanikawa

Quand un jeune en Kamtchatka rêve d‘une girafe,
une fille au Mexique attend le bus dans la brume du matin.

Quand une fille à New York se retourne dans son lit avec un sourire,
un garçon à Rome fait un clin d‘œil au soleil du matin qui colore les colonnes.

Sur cette Terre, le matin commence toujours quelque part.

Nous relayons le matin,
de longitude en longitude.

De cette manière, nous protégeons la Terre à tour de rôle.

Si tu écoutes attentivement avant de dormir, tu peux entendre le réveil sonner quelque part au loin.

C’est la preuve que quelqu’un a bien reçu le matin que tu as envoyé.


・Le relais:リレー
・rêver de:夢をみる
・se retourne dans son lit:ベッドで寝返りを打つ
・fait un clin d’œil a:ウインクする
・le réveil:目覚まし時計
・la preuve:証拠

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