2012年出版の吉本隆明著「日本語のゆくえ」は、自身の平易な言葉で、各論理について説明しているとても良い本です。この要約をもとに、彼が作った思想をより理解し、世界と言語に関する仮説を構築するヒントにできればと思います。
本書によって、以下を理解できました。
・吉本隆明は、価値を構造化するにあたって、マルクスとソシュールの分類法に影響を受けている
・価値論→芸術言語論→共同幻想論の順で理解すると、全体像がわかりやすい
・吉本隆明は、言語空間を構造化し、芸術の普遍的理論を作ることを求めた
参考資料
書籍:日本語のゆくえ
著者:吉本隆明
出版社:光文社
発売日:2012年9月20日
何年も前から持っており、何度も読んでいましたが、この度やっと要約できました。
個人的要約
以下、複数の理論をまとめて要約したものです。
個人的には、自己内部との対話のみが痛みへの有効なアプローチとなり、芸術の原型となりえる、というところが最も重要です。なぜならここで明確に、我々人間の人間性の根拠を定義しているからです。
・言語空間の構造化は、自己表出と指示表出の概念を使用し、品詞を分類することで行う
・自己表出:自己内部との対話/ディスコミュニケーション
・指示表出:五感経由の表現/コミュニケーション言語
自己表出性:感動詞 ⇄ 助詞 ⇄ 助動詞 ⇄ 副詞 ⇄ 形容詞 ⇄ 動詞 ⇄ 代名詞 ⇄ 名詞:指示表出性
最も高い自己表出性は、感動詞によって現れる
・自己表出と指示表出の2つの概念によって、芸術価値が構成される
・芸術価値と経済価値の2つの概念によって、価値が構成される
・芸術価値の特性
根本的に「自己表出」に依存する
自己表出の豊かさは、「自己⇄理想の自己との問答の豊かさ」に依拠する
芸術は、「個人の自由・個人のモチーフ」がない限り生まれない
・芸術の根幹
究極的には性(sex)になる
人が痛みを感じる場所は、個人幻想と共同幻想の間(溝)である
そこには、対幻想がある
・つまり、自己表出(自己内部との対話/ディスコミュニケーション)が豊かな芸術を形成する。それがないところでは、痛みへの有効なアプローチはあり得ない
・指示表出(五感経由の表現/コミュニケーション言語)がいくら豊かになったところで、痛みへのアプローチは、間接的で非決定的にとどまる
・国家という概念は、実生活より小さく、各時代における為政者の活動のみをさす「統治性の概念(幻想)の集合体のひとつ」である。そのことを、実感をもって認識・行動している人が少ない。よって現在の我々の課題は、政治的統治性の概念(共同幻想)と、実生活の基盤(個人幻想)をどこで結びつけたら良いか、である
以下、各論の要約です。
価値論の歴史
アダム・スミス
労働価値説
マルクス
・経済的価値は、使用価値と交換価値(貨幣)に二分する
・自然と人間の相互作用
→自然に関与すると、自然は価値化し(価値的自然)、人間は有機的自然化(収縮的自然化)する
・交換価値も使用価値も極限までいかないと、人間は平等にならない
ソシュール
・言語の価値の源泉を、観念と聴覚映像に二分する
「芸術言語論」「共同幻想論」ともに、価値という概念を使用します。そのため、最初に、吉本隆明にとっての「価値の定義」を把握しておくと理解に役立ちます。
芸術言語論の骨子
芸術言語論のモチーフ
芸術の普遍的理論を作ること
芸術の普遍的理論
1.価値は、経済価値と芸術価値に分けられる
2.芸術価値は、自己表出と指示表出に分けられる
・自己表出=自己内部との対話/ディスコミュニケーション
・指示表出=五感経由の表現/コミュニケーション言語
3-1.芸術価値は、根本的に「自己表出」に依存する
3-2.自己表出の豊かさは、「自己⇄理想の自己との問答の豊かさ」に依拠する
3-3.芸術は、「個人の自由・個人のモチーフ」がない限り生まれない
言語活動に芸術性をもたらす方法
1.自己表出に自己表出を継ぎ足すこと
2.自己表出に指示表出を継ぎ足し、自己表出に関与させること
言語空間の構造化
・言語行動の起源は、感動詞である
・言語の品詞分類:自己表出と指示表出を両端として、各品詞が分類される
・自己表出性:感動詞 ⇄ 助詞 ⇄ 助動詞 ⇄ 副詞 ⇄ 形容詞 ⇄ 動詞 ⇄ 代名詞 ⇄ 名詞:指示表出性
共同幻想論の骨子
3つの観念活動
人間の観念活動は3つに区分できる
1.個人幻想
2.対幻想
3.共同幻想
芸術的価値が生まれる場所
・芸術的価値は、個人幻想と対幻想の間に生まれる
・なぜなら、芸術の根幹は、究極的には性(sex)になるから
・そして、人が痛みを感じる場所は、個人幻想と共同幻想の間(溝)であり
・そこには、対幻想がある
共同幻想論の最終的課題
政治的統治性の概念(共同幻想)と、実生活の基盤(個人幻想)をどこで結びつけたら良いか
国家という概念
・国家という概念は、実生活より小さく、各時代における為政者の活動をさす
・国家(政府)=人間の統治性の概念(幻想)の集合体のひとつ
×天皇の国事行為=国を治める行為
○天皇の国事行為=国家の儀礼的(祭祀的)行為
→日本の保守的な国家の指導者集団は、日本的な国家概念を利用し「国を治める行為」と誤解させたままにしている
天皇の共同体と非支配層は、戦争時にどのような関係になるか?
・古代の天皇の共同体
→戦争:天皇家に属した兵卒→普段は農業を行い、戦争が行こると武人となり戦争に参加
・鎌倉幕府
→戦争:下級武士→普段は農業を行い、戦争が行こると武人となり戦争に参加
・幕末の幕府
→戦争:下級武士→普段は農業を行い、戦争が行こると武人となり戦争に参加
・明治以降の政府
→戦争:一般国民→普段は農業を行い、戦争が行こると徴兵され、兵隊となり戦争に参加
・現在の政府
→戦争:左翼的一般国民→普段は「サークル運動」を行い、戦争が行こると徴兵され、兵隊となり戦争に参加
日本の課題
古代以前の日本の課題
2つの刑法の概念
・天つ罪:農耕に関する掟
・国つ罪:宗教法
古代以前の日本において掟を作ったのは誰か?
・統治集団の知識人・役人
古代以前の日本における神話・歌謡の語り部は誰か?
1.統治集団の宗教的知識人・役人:農業の支配体制側(メイン)
2.移動商人:農産物・漁獲物の交換体制側(サブ)
2-1.陸の移動商人
2-2.漁場の移動商人
(3.定着民:非支配層)
日本の支配層の特徴
・宗教性が濃い
・万世一系(ほとんどが、単一王朝の中の相続争い)
・モチーフとした王朝が、ポリネシアン。オーストラリア〜インド半島の先端の王朝(身体的・文化的特性のもとになっている)
日本現代詩の論理要素
1.大場面:モチーフ
2.小場面の転換
3.比喩
4.他文化との等価性
日本の短歌は、うまく3までを完成させている。その点では、日本の現代小説より芸術性が高い
日本現代詩は、4でうまくいっていない
日本の2010年代の若い世代の詩には、それまでは含まれていた「自然を使った比喩」がない。事態は軽くないようだ
日本の小説の課題
1.個人のモチーフ
2.表現言語
3.無限遠点からの視点(Google Earthが表現するような)
→1と2が分離している。結合するには3が必要
3が不足しているため、世界文学になりえるものが少ない